
雨の日、彼はこっそりとモノリスに変身してみる。
無機の生命が体内をゆっくりと循環している。

電車がプラットホームに入ろうとする瞬間、閃いて飛び去る翼が窓の外に見えた。
この駅で降りてはいけない。
そう誰かが彼に、逃亡者の祈りを伝えたのかも知れない。

その箱は彼の眼球構造に似ていた。
一種の視覚機械なのだろう。
貫通する多面体はやがて彼自身を光景の束縛から解き放つ。

「空の見えない公園は落ち着くよな」分身が言う。
「べつに」彼は答える。
「雲が見えているとお前は落ち着かないんだろう?」分身が訊く。
「べつに」彼は眉をしかめる。
「ほらみろ」分身はゆらりと揺れる。つまりそれは、分身独特のにやりと笑った表情なのだが。
「うるさいな、黙れ」彼は見えないものを手で払いのけるようにする。もちろんそれは、彼に分身の姿が見えていないということではない。
「俺が黙っちまったら、お前苦しいだろうが」
彼はもう何も答えなかった。分身の言うことはいつだって正しいのだ。